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カレンちゃんでもわかる正規直交基底

はじめに

皆さんは、「正規直交基底」でをしたことはありますか?
これは数学用語なのですが、なぜか見知ったキャラクターが決めポーズをしています。
見知ったキャラなどいないという人は、今すぐ書店へ行き、きんいろモザイクを全巻購入しましょう。

さて、カレンちゃんお気に入りのこのポーズ、一部の頭が数学に侵されてしまった人からは「正規直交基底ポーズ」と呼ばれることがあります。

「正規直交基底」とはなんでしょうか?実は、大学でやる「線型代数」という数学で習うものです。高校数学でも出てくるベクトルや内積などを扱う数学ですが、大学ではそれを抽象的にしたものを考えているので、同じ言葉でも違う考え方をしているのが面白くて難しいポイントです。本当は半年くらい授業を受けてようやく正規直交基底が出てくるのですが、ここでは10分で理解できるように簡単に説明します(ぶっちゃけ高校数学の美しい物語の劣化版)

おっとその前に、線型代数を完全に理解している人たちにツッコまれないために先に注意書きをば。この記事では有限次元の場合について考えています。では始めていきますね。

ベクトルとベクトル空間

ベクトルという良い性質をもつものがあります。高校で習う平面ベクトルや空間ベクトルはこれの一種です。
ベクトル空間線型空間)は同じ種類のベクトルをいい感じに集めたものです。いい感じに集めたのでベクトル空間にも良い性質があります。「空間ベクトル」と名前が似ていますが全く違うものなので注意してください。

基底

基底とは、ベクトル空間を代表するようにいい感じに選んできたベクトルの集まりです。基底となるベクトルたちをもとにそのベクトル空間全体を作ることができるという特徴があります。あるベクトル空間に対して基底としていくつかのベクトルを選ぶ方法はたくさんありますが、選ぶベクトルの数は同じになります。

ここまでのまとめ
名前 説明
ベクトル いい感じの性質を持つ
ベクトル空間 ベクトルをいい感じに集めたもの
基底 ベクトル空間を代表するようにいい感じに選んだいくつかのベクトル
内積

ベクトルには内積という2つのベクトルから1つの数値を求める演算を定義できる場合があります。高校で習う平面ベクトルや空間ベクトルの内積と同じものです。ただし、いまは抽象的なベクトルを考えているので、内積も抽象的な内積を考えており、実は定義できるかどうかという部分から問題になるのですが、割愛します。
ベクトル \textbf{A}とベクトル \textbf{B}内積を、高校では \textbf{A} \cdot \textbf{B}と書きますが、大学では \langle\textbf{A}, \textbf{B}\rangleと書くことが多いです。例えばベクトル \textbf{A}とベクトル \textbf{B}内積 850であるとき、 \langle\textbf{A}, \textbf{B}\rangle=850と書いたりします。

直交

ベクトル \textbf{A}とベクトル \textbf{B}内積 0 \langle\textbf{A}, \textbf{B}\rangle=0)であるとき、ベクトル \textbf{A}とベクトル \textbf{B}直交しているといいます。直線が 90^\circに交わることを直交するというのはご存知でしょうが、抽象的なベクトルでは内積 0であることを直交の定義とします。

ノルム

ベクトルにはノルムというものが定義できる場合があります。これは長さや大きさの概念を抽象的にしたもので,高校で習う平面ベクトルや空間ベクトルでは絶対値がこれに相当します。
ベクトル \textbf{A}のノルムは  \|\textbf{A}\|と書いたりします。例えばベクトル \textbf{A}のノルムが 630のとき、  \|\textbf{A}\|=630と書いたりします。
ノルムは内積から定義することもできます。

ここまでのまとめ2
名前 説明
ベクトル いい感じの性質を持つ
ベクトル空間 ベクトルをいい感じに集めたもの
基底 ベクトル空間を代表するようにいい感じに選んだいくつかのベクトル
内積 2つのベクトルから1つの数値を求める演算
直交 内積が0である2つのベクトルの関係
ノルム 1つのベクトルに対して定義される1つの数値

前準備ができました、いよいよ正規直交基底が説明できます。

正規直交基底

ベクトル同士の内積が定義されているベクトル空間の基底として、次の条件を満たすようにベクトル \textbf{e}_1,\textbf{e}_2,\cdots\textbf{e}_nを選ぶことができます。 nはベクトル空間によって決まる整数です。

・すべての選ばれたベクトルのノルムが 1である。 \|\textbf{e}_1\|=\|\textbf{e}_2\|=\cdots=\|\textbf{e}_n\|=1
・それぞれの選ばれたベクトルは、他の選ばれたベクトルと直交している。 \langle\textbf{e}_1,\textbf{e}_2\rangle=\langle\textbf{e}_1,\textbf{e}_3\rangle=\cdots=\langle\textbf{e}_{2},\textbf{e}_1\rangle=\langle\textbf{e}_2,\textbf{e}_3\rangle=\cdots=\langle\textbf{e}_n,\textbf{e}_1\rangle=\cdots\langle\textbf{e}_n,\textbf{e}_{n-1}\rangle=0

この条件を満たすとき、これらを正規直交基底といいます。

ようやく正規直交基底までたどり着きました、長かったですね。

ではなぜカレンちゃんのポーズが正規直交基底ポーズと言われるのか、簡単に説明します。

正規直交基底の定義を高校範囲の平面ベクトルについて書くと、次のようになります。
直交はベクトル同士のなす角が 90^\circであること、ノルムはベクトルの絶対値を表します。また。平面ベクトルでは基底として2つのベクトルを選びます。
2つの平面ベクトル \vec{a} \vec{b}が次の条件を満たしているとき、これらは平面ベクトル全体の正規直交基底となります。

 \vec{a} \vec{b}の長さが  1である。 |\vec{a}|=|\vec{b}|=1
 \vec{a} \vec{b}内積 0である。 \vec{a}\cdot\vec{b}=0

例えば、下の図のように2つのベクトルを選ぶと、これらは正規直交基底となっています。正規直交基底となるベクトルの選び方はたくさんあり、下の図すべてにおいて2つのベクトルが正規直交基底となるように選ばれています。

腕をベクトルに見立てて、カレンちゃんのポーズが「正規直交基底ポーズ」と呼ばれているようです。
胸の前で手をクロスさせたものも正規直交基底ポーズと認められそうですが、今のところそのような用法はありませんね。

なんとなくイメージが掴めたでしょうか?
もっと知りたい!という人はヨビノリ高校数学の美しい物語を見てください。
ではまた!