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【ブックレビュー】『川越の建物 蔵造り編』

本記事は、[東京大学きらら同好会 Advent Calendar 2022](https://adventar.org/calendars/7530) 17日目の記事です。
昨日の記事は、ぷなさんの きららアニメ全視聴のススメでした。
明日の記事は、一之瀬めろんさんの「255という数字がいかにキリが良いか」です。タイトルだけ見てきららとは無関係の話題かと思っていたら、しっかり関係がありましたね()

adventar.org

恋する小惑星同好会のkn1chtです。本記事では、恋する小惑星(恋アス)のアニメの舞台となった川越の建物に関する書籍『川越の建物 蔵造り編』をレビューします。

『川越の建物 蔵造り編』


(書影は版元ドットコムより)

www.semba-shobo.com

  • 発行:仙波書房
  • 編著:『川越の建物』編集委員会
  • 協力:アニメーション制作会社 feel.
  • 画:Children's Playground Entertainment株式会社
  • 定価:2,000円+税

本書は、「川越の建物」シリーズの2冊目の本です。1冊目の近代建築編は2021年に刊行され、様々なアニメやドラマの舞台となっている建物21箇所が詳しく紹介されています。

TVアニメ『恋する小惑星』も川越を舞台としたアニメの一つですが、近代建築編では関わりのある建物が特に掲載されていないようでした。一方、今年刊行された蔵造り編では、作中でも数回登場した一番街や時の鐘周辺が取り上げられているとのことで、本記事でご紹介します。

furaba-animeseichi.blog.jp

本書の特徴と構成

「川越の建物」シリーズは建築の解説書ですが、建物ごとにアニメ制作会社によるイラストを掲載しているのが特徴的です。川越を舞台としたアニメやドラマが数多く制作されており、とりわけTVアニメ『月がきれい』においてその街並みが印象的に描かれたことがイラスト採用の背景にあるようです。

note.com

残念ながら本書で恋アスへの言及は特にありませんでした。とはいえ、アニメファンなど新たな層に届けたいという意欲が窺えます。

各建物ごとに、「建物概要と歴史」「建物の特徴」「建物の過去と現在」という3つのセクションで解説と資料写真が付されています。とりわけ充実していたのは建物概要と歴史の項目です。建物の細かい解説があるのはもちろん、建物が辿ってきた歴史や関係者への取材結果が豊富に掲載されています。関係者のインタビューでは、住人ならではの建物にまつわるエピソードを知ることができ、血の通った印象が感じられます。

巻末には、掲載された18の建物の位置を示す「街歩きマップ」があります。本文中では建物同士の位置関係に関する記述も多いため、地図と見比べながら読むと理解が深まりました。

恋アスと関わりのある建物

本書に紹介されている建物の中で恋アスのアニメに登場したものは筆者が調べた限り2箇所です。3話に街歩きのシーンがあるものの、そこに出てきた建物と本書の建物は被っていませんでした……。

陶舗やまわ・陶路子

www.touho-yamawa.co.jp

  • 恋アスでの登場回:第1話(桜先輩とイノ先輩が帰宅するシーン)

川越一番街に位置する「陶舗やまわ」は、呉服商の店舗として建てられ、様々な業態の変化を経て現在は陶器の店になっています。昭和30年代の頃は、蔵造りの古い見た目が好まれず、壁面を看板で覆い隠したりネオン装飾をしたりしていた時期もあったとのことです。本書に掲載された過去の写真を見比べると、一見同じ建物とは気づかないレベルに見た目が変わっており面白いです。

恋アスの作中に登場したのは、店舗の奥にある食事処「陶路子(とろっこ)」の外壁です。器の形をした窓が特徴的な店舗ですね。陶舗やまわでは、陶器を運ぶためにトロッコが使われていたそうで、それが名称の由来になっています。


服部民俗資料館

koedo.or.jp

  • 恋アスでの登場回:第1話(桜先輩とイノ先輩が帰宅するシーン)

こちらはこじつけ度が高いです……。陶路子が登場したシーンの直後、歩く2人を前から撮影したシーンの背景に服部民俗資料館が描かれています。ストリートビューで、陶路子前の通りから東方向に見える2軒の建物の左側です。

この建物は、雪駄や下駄を販売する「山田屋」の店舗として建てられました。現在は、当時の様子を紹介する民俗資料館です。もともとあった2軒の店をまとめて一棟に改築したため、横に長い建物になっています。

蔵造りと防火、大谷石

本書を読んでいると、蔵造りに関する知識が随所で解説されているのに気づきます。観光地としての川越は「美しい蔵造りの町並みが~」などとよく紹介されるものの、蔵造りが具体的にどういう建物なのかは知らない方もいるのではないでしょうか。

建物の解説の中では、防火に関する記述が繰り返し登場します。川越の町は、明治26年に発生した川越大火で大きな被害を受けました。蔵造りは耐火を重視した建築様式であることから、町を再建するにあたって好んで採用されました。外壁の漆喰や観音開きの窓、窓の隙間を土で埋めるための目塗台といった防火のための工夫が施されています。

www.kawagoe.com

仲町観光案内所」と「加藤家住宅」の章では、大谷石で作られた防火壁や外壁について触れられています。大谷石(おおやいし)は栃木県宇都宮市で産出する軽石凝灰岩で、加工しやすく火に強い特徴を持ちます。地元の宇都宮市には大谷石を使った石蔵が存在しますが、川越でも防火のために取り入れられているとのことです。

gbank.gsj.jp

さて、大谷と聞いて賢明な恋アス読者の方々はなにか思い出すことがあることでしょう。実は、恋する小惑星の「きららキャラット」2022年12月号掲載回で、まさに大谷石採石場跡を巡るツアー「OHYA UNDERGROUND」が取り上げられていました。43ページでも、火に強いため蔵や塀に使われてきたという解説が登場します。


ohyaunderground.jp

作中で採掘場や地底湖を回って大谷石について学んだ地学部の皆さんでしたが、地元の川越にも大谷石を使った蔵造り建築があることに気づいていたのでしょうか……?

まとめ

『川越の建物 蔵造り編』をレビューしました。川越の蔵造りに興味がある方には非常に有益な資料になる本でした。聖地巡礼で川越を訪れる方にとっても、より深い視点で現地を巡るきっかけになる情報が多数含まれています。

建物の一覧を見て、恋アスに関係する部分はあまりないかな?と思いながら読み進めていたら大谷石が登場してひっくり返りました。一見関係のない事柄を裏で結びつけている地学の幅広さを感じましたね……。