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【全文公開】国内油田巡検記【#FindOurStars vol.2】

この記事は、東京大学恋する小惑星同好会の同人誌『#FindOurStars vol. 2』掲載記事のWeb再録です。2021年10月当時の記述を概ねそのまま掲載しておりますのでご了承ください。

utkiraracircle.github.io

著者:れんず(@Fresnel_pic

まえがき

皆様こんにちは。4か月ぶりかもしれません。れんずでございます。〆切当日になってこの記事を書き始めましたが、この文章が誌上に存在するということは、締め切りを引っ張って伸ばしたか6時間で超絶がんばったかの2択です。まあどうせ前者なんですけど。マジで爆優絵師兼デザイナー様と編集長様をはじめ、きら同各位にはご迷惑をおかけしております……。 こんなことになったのはきらら同好会合同誌 “Micare” に 「もゆもゆに露出計を捧ぐ」として電子工作記事をぶっこんだことが原因の99割な気がします。私の夏休みを全振りして作った露出計の記事なので、気が向いたらそっちも読んでいただけると嬉しいです(ふかぶか)。よろしくお願いいたします(土下座)。

さて、今回の私の記事は「国内油田」です。そもそも油田ってなんだ、え、日本に油田があるの!? まあ焦らないで。私はどういうわけかここ1年半ほど「油田」というものにはまっておりまして、図書館で本を調べたり現地に行ったりしております。地学徒兼旅行好きにはたまらないですね。人間活動と地球史の結節点に興味を惹かれる、というと高尚に聞こえますが、結局私は誰も見向きもしないような対象をニヤニヤおいかけるのが好きなんでしょう。地学を始めたのだって相手が面白かったというのが大前提ですが、みんなやってないからやってみる精神があったことは否定できません。

ゆえにこの記事が誰かに刺さるのかは分かりませんが、世間様一般で言われるところの重箱の隅も、つついてみるとなかなか面白いということを全力でお伝えします。ガソリンの危険な香りとともに火気厳禁で私の駄文をご堪能下さいませ。

石油大事

石油って、だいじですよね。仮にも現代に生きる我々、石油との関係は切っても切れません。電力の何割かは石油を燃やして作られ、身の回りに石油製品は必ず存在します。たとえどこかの環境大臣や国連で演説する活動家が目の敵にしても、彼らとて石油の恩恵をどこかで受けています。受けていないと主張するのなら…それはおそらく狭量な見方と言わざるを得ません。

ところで日本は石油資源をほぼすべて輸入に頼っています。割合で言えば99.7%もの石油を輸入しています。この数字を見ると、輸入していない、つまり国産の石油が存在することが分かります。当たり前ですね、何事にも例外というのがあります。しかし悲しいことに、このような例外は往々にして無視されます。大学受験における理系地学も然り。でも今回は無視しません。なにせそれがテーマなのですから。

何が楽しいねん

国内の油田を楽しむったって、どこが楽しいねんという疑問や反語の声が聞こえてきます。たぶん私も何度か聞いていると思いますが、そのたびに適当に答えをはぐらかしてきた記憶があるので、ここでその楽しさを言語化しておきましょう。まず、「油田の楽しさ」について。石油はここ150年ぐらいしか利用の歴史がないにもかかわらず、人類のエネルギー資源として確固たる地位にあります。もし脱炭素を言葉尻だけでなく本気で目指すなら、石油がなぜ今の今までこのような「主要エネルギー源」たりえたのかを知る必要があるでしょう。なぜか。石油が便利だった点を踏襲してもらいつつ、その欠点を潰せるようななにかが、次の時代の主要エネルギー源として社会に受け容れられやすいからです。「油田」は石油を実際に採取する場所、すなわち人類が実際にエネルギーを手にする場所で、ここにも石油の性質やその利点欠点を垣間見ることができます。油田研究は石油研究に、そして将来のエネルギー研究につながるわけですね。

ついで国内のそれを見ていると何が楽しいのか。現在私は日本に住んでいます。ということは油田研究をしたければ日本にあるそれを見るのが手っ取り早いわけです。日本語資料もあるし、関係者様とのコンタクトは日本語だし、軽率にフィールドワークできる。用いている技術も手掘りから欧米直輸入から国内で開発したものまで様々です。なにに関しても都合がいい。そして幸か不幸か全体の規模が小さく、そのうえよく無視されるトピックなので、包括的な研究をしやすいはずなのに事例が少ないんですね。少なくとも大学のOPACで雑に検索しただけでは『日本の油田』のような本は見つかりませんでした。炭鉱関係の本はたくさんあるのに。ということは学生の個人的な小さいプロジェクトで研究するにもうってつけの話題のはずです。私の見立てでは。国内油田、魅力的に思いませんか?

つまり「国内油田」とは「お手軽にエネルギー研究ができる」ことが魅力だというわけです。まあ、ここまで日本語を並べ立てなくても、「石油の匂いが好き」とか「遺構がかっこいい」とか「人類の活動の儚さを感じられる」とか、いろいろ魅力はあるんですよね。研究テーマなんて恋のようなモノです。しかし「私はこれが好きだ」だけでは誰もわかってくれません。「でもそれお前の感想じゃん」とは言われない魅力、国内油田を調べる意義が「お手軽エネルギー研究」なわけです。

恋アスと油田

ところでなんでお前恋アス合同誌に国内油田の記事なんか書いてんの?というツッコミが聞こえてきます。ギクッ ちゃ、ちゃんとこここ恋アスと油田には深い深い関係がががあああありましてね…… 単行本第4巻、あおが秋田へ帰省する回があります。秋田大学鉱業博物館での話で、市内に油田があることが触れられており、あおの母親も住宅街にポンプがあると言っています。…それだけ? えぇ、それだけです。いや出てるんですよじゃあここでやったっていいじゃないですか…ね…?白い視線を感じますが、こういうのは割り切りと厚い面の皮が重要です。なにせこれまでもこれからも、重要だ重要だと言われつつ大して見向きもされずリソースも投じられない地学をやっていくわけですから。

石油について 雑な前提知識

さて、さっそく私が行ってきた油田のおはなしを…といきたいところですが、その前に石油に関連するいくつかの前提知識を並べておきます。石油と原油重油とガソリンの違いが分かるかたは、読み飛ばしてもらっても構いません。

石油と原油

「石油」とは、辞書的には「炭素と水素の化合物(=炭化水素)を主成分とする、液状の鉱物資源」とされています。私はこれらの「地面掘って出てきた油みたいなもの」を総称して「石油」と言っています。いろんなものが「石油」に含まれるわけですが、中でも地面から出てきた直後の状態にある石油を原油と言います。一般的にはこの状態で燃料等として利用することはできないので、これを分離します。これが「精製」と呼ばれる過程です。

https://www.jpca.or.jp/images/studies/junior/tour01-img02.jpg
石油精製工場の概念図。沸点が低いものほど上へ昇っていきます。「石油精製工場|石油化学工業協会 」より

石油精製といろんな油

原油には一般に様々な成分が含まれており、そのまま使うのは困難です。そのため、多くの場合成分ごとの沸点で分離して流通させています。原油は石油精製工場で沸点が高い順、つまり成分の分子が大きい順に アスファルト 重油 軽油 灯油 ガソリン・ナフサ 石油ガス に分離され、消費地*1へ送られていきます。それぞれの性質は連続しており、沸点が高いほど「燃えにくく(=扱いやすい)、重い」ものになります。これを見ていただければ分かるように、実はアスファルトって石油なんです。道のアスファルトに火がついたマッチを落としたところで、燃えませんよね。燃えたら一大事です。逆にガソリンなどはある程度の爆発性があるからこそ内燃機関に使われ、日々大きなエネルギーを生み出しているわけです。

さて、必要な事項を書き終わったところで、ここからが本題です。以降では私がこれまで訪れた油田を浅く雑に、旅行記も交えつつ紹介していこうと思います。気が向いたら、あるいは近くを通る際などに立ち寄っていただき、うおぉ~油田かっちょえぇ~ となっていただければこの記事の目的の最低でも98% は達成されました。それでは私の国内油田紹介記事をお楽しみくださいませ。

登場する油田の地図。秋田県 豊川油田・八橋油田、新潟県 新津油田、静岡県 相良油田
本稿に登場する油田。

新津油田

概要

新津油田は私が初めて行った油田です。ファーストコンタクトの地ですね。ここで私は人類と地球の当事者的な接触を目の当たりにし、圧倒されました。お前はだれかって? 部外者です。

ここはかつて日本最大級の油田でしたが、現在は操業を停止しており、金津地区に大規模な遺構と資料館があります。最近のニュースで、石油が湧いてきてこまった!というものがありました。あれも実は新津油田がある新潟市秋葉区です。2L のペットボトルもっていったら分けてくれないかな……。

金津地区の遺構は歩いて回るのにちょうどよい広さに分布しているため、30~60分程度の散歩感覚で油井跡や動力小屋である「ポンピングパワー*2」、水と石油を分離する精油施設を回ることができます。もちろん油田、湧いているのは石油ですので火気厳禁です。20分ほど追加で時間を取れれば、石油が染み出ている露頭へ行くこともできます。国内油田スターターキットのようないい場所ですね。

新津油田の油井跡。操業当時は森などなかったが、操業停止して60 年以上が経過し、 現在では多くの油井跡がこのように森林に吞み込まれています。諸行無常
新津油田のポンピングパワー。迫力。
新津油田近くの露頭。石油が染み出していた場所を同行者のオタクに指示してもらいました。巡検は大人数で行くと厄介だけど1 人で行くのも危険なので、2、3 人ぐらいがちょうどよいと思っています。

石油は水より軽いため、地層でどこに集まっているのかがよく知られています。日本の油田には背斜*3トラップが多く、新潟、秋田の油田もこれです。当然と言えば当然で、日本列島にはプレート運動によって太平洋-日本海方向に圧縮する力がかかっているため、褶曲ができやすい環境にあります。そんなところに石油のもとになる石油根源岩(ケロジェン)が存在し、石油ができると…めでたく背斜部に生成した石油がトラップされ、油田になるんですね。

https://www.eneos.co.jp/binran/part01/chapter01/images/section02_il04.gif
石油トラップの概念図。石油は水よりも軽いので、上へ上へとのぼっていき、地表へつながる抜け道があればそこから逃げ、なければ最上部で溜まっています。これを運よくか根拠に基づいてか人間様が掘り当てると、油田になるわけです。「第1編第1章第2節 原油生産地域と主要油・ガス田|石油便覧-ENEOS 」より
背斜構造が分かりやすい秋田県の地質断面図。産総研地質調査総合センター「GeomapNavi 」より

アクセス

信越本線矢代田」駅から徒歩30分ほど。「新津油田資料館」で調べるといいでしょう。


巡検

私は新津油田にこれまで2回行っており、1回目は2020年8月、新潟へきらら展を見に行ったときに合わせていきました。最初は「そういえば新津に油田跡あったよな~」ぐらいの気持ちでしたが、時間内に見終わらなかったこともあり、また来ようと決めていました。

2回目は2020年11月に、このあとの秋田県にある豊川、八橋油田とあわせて地学やエネルギー方面に興味のあるやばいオタク計3匹で訪れました。今は亡きE4系Maxで長岡へ行き、雁木を眺めたあと新津油田を訪れ、夜に新潟港からフェリーに乗って秋田港へ行きます。秋田の油田を見終わったらその日のうちに東京へ新幹線で帰ってくるというなかなかにとち狂った旅程でした。秋の日本海フェリーは大揺れであり、ちゃんと秋田に到着するのかもわからない状況でしたが*4メンバーがメンバーだけに面白かった……。ちなみに新幹線は事前予約により半額で取ったので、旅行の快適さ(人権*5度)の割に安く済んだのがうれしかったですね。

見附駅から徒歩20 分ぐらいのところにある、雁木が保存されている(残っている?)地区。雰囲気が好きです。こういうところに生まれていたら、私はどんな人間になっていたんでしょうか……?

豊川油田

概要

ちょうど私が巡検で訪れる直前にブラタモリ「秋田」の回で取り上げられたらしく、ブラタモリ関連の立て札や資料がありました。ブラタモリ効果、恐るべし。まあ、私は問題の秋田回を観ていないんですけどね……。
さて、豊川油田は少し東にある「黒川油田」とともに現役の油田です。かつては天然アスファルトを露天掘りしており、原油とともにトロッコで駅まで輸送していたそう。そういう光景、私はだいすきです。ここでもポンピングパワーや油井跡、原油の水分離施設等を見ることができます。現在豊川油田は東北石油株式会社が管理しており、原油天然ガスを産出しているそうです。豊川油田に関する展示室がこの東北石油の事務所だった建物を改装して設けられており、古写真から壁掛け電話まで、濃密な展示をみることができます。

丸で囲んだ部分がアスファルトを露天掘りしていたという穴です。現在は水が溜まって池となり、周囲に溶け込んでいます。「地理院地図 / GSI Maps|国土地理院」より
アスファルトを採掘していた穴の近くを流れる小川。うっすらと水面に膜があるように見えますが、これもれっきとした原油です。どこかから染み出してきたのでしょう。画面下の黒い物体は天然アスファルトです。いい匂いでした。ここでアスファルトを採集し、展示室でさらにこぶし大のかけらを譲っていただきました。ありがとうございます……!
ここにもポンピングパワーがあります。規模感を示すため、スケールとともに撮影です。写真を撮るとき、是が非でもスケールを入れようとする地学徒の悪い癖が出ましたね。
現在も使われているという石油タンク。崖の上から生えているパイプでタンクローリー原油を積み込むそうです。
注目してほしいのは一行の靴…ではなく地面です。水をはじいていることがわかります。水は地面にしみ込むのが普通ですが、ここは油田地帯。地面には先に油がしみ込んでおり、その油が水をはじいていたんですね。折しも雨だったのでこのような面白い写真を撮ることができました。
豊川油田で現在も採掘されている天然ガスのガス井。
豊川油田展示室にて。操業当時使われていた壁掛け電話や黒電話なども展示されています。壁掛け電話、実物を見たのは初めてかもしれません。
豊川油田展示室では日本各地の原油も展示されています。こういうのを見るとせっかく行きたい場所リストをひとつ潰したのに、リストの項目が増えてしまいます。まあ、こういうこともある。

アクセス

奥羽本線「大久保」駅から徒歩30分ほど。「東北石油」や「豊川油田」で調べるといいでしょう。


巡検

秋田港に到着したのは午前5時。こんな時間から豊川油田展示室に突撃することはできないので、秋田駅でしばし時間を潰し、大久保駅の待合室(ガラス張り!)で2時間仮眠します。その後歩いて東北石油へ向かい、旧事務所へ。事務所の管理人さんのご厚意により、周辺の施設を案内してもらいました。そして秋田市内は外旭川まで車で送っていただき、東北でのみ展開している外食チェーン南部屋敷」がおいしいという情報をいただきます。こういう地元の人に愛されているチェーン店っていいですよね。ほんとうにありがとうございました……!なお、当日の天気は風と雨が吹き付ける大荒れ。かなり体力を持っていかれる巡検となりました。

2時間ほど仮眠した大久保駅。お世話になりました。
外旭川油田のポンプ、奥にはガソリンスタンド。産地直送ってことですかね(いいえ)。背景には虹がかかっており、なんとも情報量の多い写真です。虹がかかっているということは、直前には雨が降っていたということで……。この巡検の限界度を象徴する写真でもあります。このあと何度も降っては止み降っては止みを繰り返し、飽きるほど虹を見ました(小声)。

八橋油田

概要

「やばせ」と読みます。「やつはし」ではありません。現在稼働している国内油田の中では最大の規模を誇り、かつての国策会社帝国石油の後身、帝石が開発と操業を行っています。恋アスに登場した「住宅街の中のポンプ」もまさにここでしょう。ここは同じく秋田市内にある「外旭川油田」と同様に大規模な操業が続いており、櫓型の油井ではなく梃子がゆっさゆっさと動く近代的なポンプが複数稼働しています。資料館のようなものは特にありませんが、近くを流れる川の名前が「草生津川」となっており、地名に油徴*6が残るほど古くから知られていたことが窺えます。

八橋油田のポンプ。近所の空き地になにかが生えてるようで、見ていて面白いです。この光景を見てからしばらく、空き地を見たら「掘ったら出ないかな……」という妄想しかできなくなりました。
草生えますわ(お嬢様語)。ではなくて臭い水が流れる川。いいにおいなのにどうしてみんなみんな石油のことを「臭い」というのでしょうか。

アクセス

奥羽本線「秋田」駅からバスで15分、「帝石前」徒歩すぐ。「八橋油田」で調べるといいでしょう。


巡検

外旭川の油田を見終わって秋田駅に戻ってきた一行は、八橋にも足を伸ばそうと考えました。何も考えずバスに乗ってやってきたのがここです。外旭川でも見たポンプが、住宅街のいかにも空き地のような場所でゆっくり動いていたり、記念碑のようなポンプが川沿いに保存されていたりしました。

草生津川の土手に生えているポンプ。現在は稼働していません。

一通り油井を眺めた一行は、近くに書店があると知り駆け込みます。書店は結構面白いもので、受験参考書や旅行ガイドのコーナーを見ていると、地元の人がどこへ進学し、どこへ旅行するのかという生活を垣間見ることができます。面白い。そして主に推し作品が置いてあるかどうかを確認しに、漫画コーナーにも行きます。どうも見たことある絵柄の色紙が飾られてるな…と思ったらなんと恋アスの色紙でした。これはひょっとしてQuro先生が八橋に取材でいらしたときに置いていったのではないでしょうか…? いいものを見せていただきました。

Quro 先生の色紙。不意打ちを食らってかなりびっくりしました。

相良油田

概要

こう書いて「さがら」と読みます*7。難しいですね。ここで産出する原油は一般的な原油のイメージと少し異なり、橙色の透明な液体です。透明ということは重油成分が少ないということで、つまり軽油やガソリン成分に富む原油であることが分かります。このような重油成分が少ない軽質油が産出する油田は珍しいことが知られています。相良油田の存在は明治最初期のお雇い外国人 R.H.ブラントン*8の耳にも届いており、灯台の燃料油に国産の石油を使おうという報告書を上げています。

油田跡は整備されて公園になっており、資料館と運動施設が併設され、地元の人たちのレクリエーションの場となっています。なんならBBQもできるそうで……(主に爆発事故的な意味で)大丈夫か? 油井は手掘り井戸が複数復元保存され、また相良油田で最後に掘削された機械掘りの油井が「動態保存」されており、いずれも見学可能です。「動態保存」としたのは2年に1度、「原油くみ上げとさくらまつり」として実際に石油を汲み上げて原油を濾過だけしてエンジンにつっこむというなかなか豪快なイベントをやっているからです。軽質原油だからこそできる芸当、面白いので来年行ってみようとおもいます。

相良油田で最後に掘られた、機械掘りの油井。これが相良で操業当時から保存されている唯一のものです。
櫓の根元。イベントで使う機械なのでしょうか、新しそうなブルーシートで何かが覆ってあります。画面中央の水面にはうっすらと油膜が浮いており、ちょっと触ったところべたべたしました。立派な原油ですね。
相良では複数の手掘り井戸も、換気用のたたらを含めて復元されています。この写真はブレブレなのですが、そこはどうかお赦しを……。


この相良油田は地元の榛原高校の生徒たちによって地域一帯の遺構調査や関係者へのインタビューが行われており、興味深い成果が出ています。

アクセス

東海道本線「金谷」駅から「相良局前」いき自主運行バスで「女神」バス停下車、徒歩40分
または東海道本線「静岡」駅から「相良営業所」いき特急バスで「相良営業所」バス停下車、徒歩1時間
相良油田資料館」または「油田の里公園」で調べるといいでしょう。


巡検

相良油田を訪れたのは2020年末、東京から大阪へ向かう帰省の途中でした。

実は相良油田Dr.STONE実名で出たらしく、資料館の一角には特設コーナーがありました。TV放送もされたのでしょうか、あまり把握していない……どうやら若い訪問者にDr.STONEのファンが多いそうで、私が訪れた際も「ファンの方ですか?」と尋ねられました。牧之原市としても結構推しているそうで…いずれ履修しようかしら。

先述の高校生たちによる研究成果をまとめた冊子が販売されており、増刷はないだろうと見込んですぐに買いました。このような地域に密着した研究成果は成果が地元内にとどまりがちで、大学図書館でも探すのは難しいです。いい買い物をしました。非常に詳細に調べられており感動するとともに、私の高校期と比較して高校生ってなんなんだろう、と帰りの電車で考えていました。あなたの高校生活は、彼女たちのように満ち足りたものでしたか?私は高校期に忘れ物しかありませんでした。その屍を乗り越えて得たものが、まさか、まさかこの地獄だなんて。

地元の人曰くガソリンや灯油を油田に直接買い付けに行ったそうで、いい話だなあと感じました。油田のある生活。こんど小説で書いてみようかしら。

あとがき

以上に、私の雑な油田紹介記事を書いてきました。主に時間の都合により、調べていた他の油田についての紹介を載せることはかないませんでしたが、油田の面白さが少しでも伝わっていれば嬉しいです。是非いちど油田を見に行き、ご自身が使っている石油について思いを巡らせてみてはいかがでしょうか?公共交通で行けば石油の偉大さが身にしみてわかるはずです。私は身にしみてわかりました。
いずれどこかの場で日本の油田についてちゃんとまとめたものを発表するつもりでいます。それがnoteなのか学会なのか、はたまた書籍かコミケのサークルなのかはわかりませんが……。
締切を引っ張って引っ張ってこの文章を書いていました、ほんと編集長様とデザイナー様には頭が上がりません…… 前作の地学オリンピック参加記に比べると、地名の羅列に終始した感があり、クオリティは下がっているかもしれません。これに関しては…マジで、ごめんなさい > <
油田、やっぱり面白いものです。現役でも動いていなくても。国内の油田に光を当てるため、今日も私は資料の山や堆積学や地球化学の教科書と格闘していることでしょう。知らんけど。

参考文献

*1:この消費地精油所のすぐ隣の石油化学工場だったり、山奥のガソリンスタンドだったりします。

*2:ポンピングパワーは、回転運動からカム機構を使用して多数の往復運動を得る施設のことです。油井から石油をくみ上げる動作は井戸ポンプのそれと同じ、上下の往復運動ですが、人間が得られる安定した動力は回転運動であることが多いです。その変換機構がここなわけですね。新津油田資料館に動作原理の展示がありましたが、見た時には天才か~~~~~!?と思いました。実際考えた人は天才だと思います。

*3:地層が水平方向からの圧縮力によって曲げられた「褶曲」のうち盛り上がった場所をいいます。私は「馬の背中」と関連付けて覚えています。逆に凹んだ場所は「向斜」です。

*4:このとき利用したフェリーは新潟発秋田経由苫小牧行きの新日本海フェリーでした。雁木を眺めた後、駅へ戻る途中にフェリー会社から「秋田港抜かすかもしれないけど乗る?」といった趣旨の電話が来ました。海が荒れているのでしょう。3匹のオタクで協議した結果、乗ることを決定しました。結局、秋田港で降りた乗船客は我々油田巡検メンバーだけでした。

*5:旅行が快適であることを「人権」と言います。人権を得るためには多額の旅費が必要ですが、逆にいろいろな意味で旅行が大変なことを「限界」といいます。今回の巡検では行き新幹線、宿兼夜間の移動がフェリーの4人用1等船室、帰り新幹線という人権移動手段でしたが、新潟での歩行距離やフェリーの揺れ、秋田での天気は限界でした。その意味でこの巡検は人権巡検とも、限界巡検とも言うことができます。オタク語ですね。

*6:石油の存在が窺える有名な地名に、「草生水」や「草生津」のような「くそうず」というものがあります。これは「臭い水」という意味で、石油の匂いを意味しています。石油、いい匂いなのにどうして臭いなんて言うんでしょうね、かわいそうですよ…… このような石油の匂いや水上の油膜などから石油の存在が窺えることを油の徴候という意味で「油徴」と言います。高校の時覗きに行った堆積学会ではじめて聞いてから、どんなものだろうと思っていましたが、なるほどこれが油徴かと感動しました。

*7:「相良」と私の関係について語りましょう。私が「相良」を認知したのは油田がはじめてではありませんでした。私は油田のほかに灯台も好きなのですが、有名な灯台に「御前埼灯台」というものがあります。ゆるキャン△でしまりんが行っていましたね。ここへ向かうには、大井川鐵道で知られる金谷駅から1日11本のバスに乗り、さらに終点の「相良局前」というバス停で路線バスの接続をしなければいけませんでした。丸一日消費するイベントです。車の免許取ってレンタカー借りればいいじゃんといったそこのあなた、あとで親不知海岸ね。とまあ御前埼灯台を無事履修したのが2020年11月半ば、新潟県秋田県を回った巡検の少し前といったところで、しばらくここには来ないだろうと思っていました。しかし、東北石油さんで日本各地の油田の原油を見せてもらうと、どうも見たことある文字列があります。「相良」がまさにそれでした。エェーッ! あそこ静岡だよ!?油田あんのか!?と半信半疑で調べてみると、たしかに見つけてしまったんですね。これは行くしかない。というわけで年末に問題の油田へ行ってきた、というのが私の相良エピソードです。

*8:全国3000万人の灯台ファンなら知らない者はいない、スコットランド生まれの土木技師です。日本には明治初期に灯台技師として招かれましたが、彼自身が本国で鉄道技師をしていたこともあり、国の土木事業に関して頻繁にアドバイスをしています。灯台は作るわ鉄道のルートに意見を出すわ油田は見に行くわで、仕事が私の趣味と丸被りな技師です。英国の技師と言えばイザムバード・キングダム・ブルネルも、彼の仕事が私の趣味を的確に撃ち抜いています。彼らの仕事はさぞかし楽しかったことでしょう。