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【全文公開】きららの中の東大【Micare vol.2】

はじめに

まんがタイムきららの作品のテーマは多岐にわたっていて、「こんなものまできららに登場していたのか」と思うことも多いです。では、われらが東京大学はきららに登場するのでしょうか? 結論からいえば、多くのきらら作品で東大の施設が出てきたり、東大が言及されたりしています。つまり、東京大学もきららだというわけですね(ぐるぐる目)。

本記事では、そんな「きららの中の東大」を探し集めた結果を報告します。「施設編」では東大の施設が描かれた作品、「試験問題編」では東大の入試問題が登場した作品、「言及編」では東大への言及がある作品をご紹介していきます。

筆者:kn1cht(@kn1cht


- 本記事は、まんがタイムきらら合同誌「Micare vol. 2」掲載記事および、よんこま文化祭2022で配布した追加情報ペーパーのWeb再録です(一部に加筆修正を加えます)。
- 2022年8月当時の記述が残っている場合がありますのでご了承ください。
- なるべく網羅的にご紹介するよう心がけますが、我々が見つけきれていない「きららの中の東大」をご存じの方はぜひお知らせくださいますと助かります。

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施設編

恋する小惑星(アニメ第8話「冬のダイヤモンド」)

『恋する小惑星』は、地学部の面々が地学の様々な分野を探究する日々を描く作品です。TVアニメ第8話の冒頭で、地学部の新部長になった猪瀬舞さん(イノ先輩)が地学オリンピックの予選に挑戦するシーンがあります。このとき試験会場の門として出てきた場所は、東京大学本郷キャンパスの弥生門です。

アニメで弥生門と対面するイノ先輩
弥生門と対面するイノ先輩 *1 © Quro・芳文社/星咲高校地学部

本郷キャンパス弥生門を撮影した写真
弥生門正面。土日祝日は中央の大扉が開かないため、作中と同じ状態を撮りたい場合は平日に訪問する必要がある

この門はキャンパスの北東に位置し、キャンパス最寄り駅の一つである東京メトロ千代田線根津駅への定番ルート上にあります。そのため見覚えがある人も多く、8話を観ていた知人が一斉にTwitterで「弥生門出てきた!」と反応していたのを覚えています。

本郷キャンパス弥生門を撮影した写真をパース補正したもの
普通に写真を撮っても、作中のように壁面全体が垂直にはならない。Lightroom等でパースを補正すると近い見た目になる

門の向こうにそびえている建物は工学部3号館です。外側の見た目は本郷キャンパスの多くの建物の特徴である「内田ゴシック*2」のデザインを復元したものですが、改築によって内部は最新の研究棟になっています。電気系工学専攻・システム創成学専攻/学科・応用化学専攻など、多数の専攻が入居しています。また、1階にはローソンストア100(通称100ロー)が入っており、食事代を節約したい学生のオアシスとなっています。

ut-ttime.net

イノ先輩が東大を訪れた直接の目的は地学オリンピック予選です。しかし、ふぁぼん氏の考察*3によれば、予選の会場は埼玉県にもあり、志望校の見学を兼ねてわざわざ東大を受験地に選んだ可能性があるとのことです。果たしてイノ先輩はどんな大学に行ったのでしょうね。

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がっこうぐらし! ~おたより~(第1話)

本記事の取材中に恋アスと弥生門関連のツイートを探していたところ、「がっこうぐらし!〜おたより〜』の復興地区本部の門もここではないか」と言っている方を見つけました。

復興地区本部の門と弥生門が左右に並んでいる比較画像
左:復興地区本部の門 右:弥生門*4 © Nitroplus海法紀光千葉サドル芳文社

実際に行って見比べてみると、確かにこちらも弥生門っぽい見た目ですね! 本郷キャンパスの門はそれぞれデザインが異なり、扉の中央に円形のマークが入っているのは弥生門と農正門(農学部正門)のみです。しかも、マークや柱の見た目は両者で異なり、弥生門の方が作中のものと近く見えます。

そして、りーさんが働いている復興地区本部とされている建物ですが、こちらは東京大学医学部附属病院(東大病院)の外来診療棟がモデルと思われます。外来診療棟は、本郷キャンパスを南北に貫く道路に面した位置にあり、病院への来訪者向けにバス停やタクシー乗り場も設置されています。前項でご紹介した工学部3号館と同じく内田ゴシック風*5の建物なので、規則的に張り出した窓(ベイウィンドウ)など共通したデザインがみられます。

復興地区本部と外来診療棟が左右に並んでいる比較画像
左:復興地区本部 右:東大病院外来診療棟 © Nitroplus海法紀光千葉サドル芳文社

さて、 ~おたより~内では外来診療棟が弥生門のすぐ後ろにあるかのように描かれているものの、本記事で説明した通り、実際には弥生門入ってすぐの場所は工学部3号館です。弥生門と東大病院は距離が400 mほど離れていますし、外来診療棟が作中のアングルで写る位置に門はありません。

なお、第2話でくるみさんが生活している大学病院は東京医科歯科大学病院の建物と似た外観になっています。次のステップに向けて邁進するりーさんやくるみさんの居場所として、大学の建物がそれぞれ登場してくるのは象徴的ですね。

ぎんしお少々(第1巻 p. 95)

『ぎんしお少々』は、高校生の塩原もゆるさんと藤見銀さん、そしてその姉たちを中心に、フィルム写真を通して育まれるゆるやかな関係性を描いた作品です。完結編となる第2巻が2022年6月27日に発売されました。

houbunsha.co.jp

作者の若鶏にこみ先生自身がフィルムトイカメラユーザーであり、写真をもとに精巧に描かれた背景も見どころです。そのため上野や秋葉原、日暮里など現実の場所がたびたび登場します。

第1巻の終盤、藤見銀さんと姉の藤見鈴さんが小学生時代の思い出を振り返るシーン。2人が上野公園へ到着する場面では東大病院の入院棟Aと入院棟Bが背景にちらりと登場していました。入院棟は、上で登場した外来診療棟よりさらに東側(上野公園側)に位置しています。

清水観音堂の石段上から、不忍池を望む風景の漫画コマと写真が左右に並んでいる比較画像
水観音堂の石段上から、不忍池を望む風景。中央の一番奥に見えている凹字型の屋根の建物が入院棟A、その右が入院棟B*6 © 若鶏にこみ/芳文社

2人の目的地はあくまで上野公園なので、ここでの東大病院は単に風景の一部として見えているに過ぎません。本郷と上野は隣接した街で、本郷キャンパスの東側はすぐ上野公園の不忍池と繋がっています。そのため、上野駅側から西方向を見ると東大病院の施設群も見えていることになります。

上野駅から本郷キャンパス池之端門までは、Google Maps調べで1 km程度の道のりです。ぎんしお少々の舞台を訪れる際は、少し足を伸ばして本郷にもお越しになってはいかがでしょうか?

幸腹グラフィティ(アニメ第2話「ふんわり、ゴガガガッ。」)

幸腹グラフィティ』のTVアニメ第2話、開始5分あたりのお花見に来た一行が上野公園にたどり着く場面の背景に東大病院らしき建物が描かれています。『ぎんしお少々』第1巻と同じく、清水観音堂の石段から不忍池方面を見たアングルです。背景の建物は現実の風景とあまり合いませんが、不忍池弁天堂の左上にある建物がぎりぎり東大病院の入院棟Aの特徴を捉えています。

rimatai.blog.fc2.com

ステラのまほう(アニメ第4話「スキルアップ」)

ステラのまほう』は同人ゲーム制作をめぐるあれこれを描いた作品で、2016年にアニメ*7が放送され、その後も続いた原作コミックは2021年末に全10巻で完結しました。作者のくろば・U先生が東京大学出身という意味でも東大と関係する作品ですが、実はアニメの方にも偶然(?)東大の施設が写り込んでいます。

第4話で、本田珠輝さんらSNS部メンバーが電気屋にスキャナを買いに行く場面の冒頭は、つくばエクスプレス柏の葉キャンパス駅西口の風景をモデルにしています。この駅は東京大学柏キャンパスの最寄り駅です。ただ、メインとなる柏Iキャンパスまで2 kmほどの距離があるため、バスや自転車で移動する人が多いです。

sinkirouno.exblog.jp

柏の葉キャンパス駅西口の風景を写した写真で、屋根付きのバス停や歩道などが見えている
キャンパス駅西口、SNS部一行が待ち合わせに使った場所付近。白い屋根はバス停

さて、まさにこの駅前のカットで東京大学の施設がばっちり描かれています。

それがこちら。

The University of Tokyoと書かれたビルを下から撮った写真
フューチャーセンター正面入口

このビルは東京大学柏の葉キャンパス駅前サテライト(フューチャーセンター、通称FC)です。キャンパス駅周辺での産学連携を目指して2014年から運用開始され、東大のいくつかの研究室のほか、大学と連携している団体や企業が入居しています。平日の日中ならば1階エントランスから出入りできますが、3階以上の研究室やオフィスが入っているエリアには登録された人の学生証などがなければ入れません。

フューチャーセンターの近くには、学生・職員・来訪者対象の柏キャンパスへの無料シャトルバスが停車するほか、2019年からはレベル2自動運転バスの実証実験車両も運行しています。柏キャンパスに来訪される際、機会があればぜひ乗ってみてください。

www.k.u-tokyo.ac.jp

www.u-tokyo.ac.jp

自動運転のバスが駅前のバス乗降所に停車している様子を写した写真
自動運転バスの実証実験車両

妄想アカデミズム(第1話)

まんがタイムきらら』2022年8月号にゲスト掲載された作品『妄想アカデミズム』は東大受験をテーマにしており*8、作中に東大の施設が登場します。第1話では、どこにでもいる高校2年生の湯島未春さんが、幼馴染の室町莉子さんと共に「東卿大学」を目指すことを決意します。

作中の景色の一部は、現実の東京大学の施設に似た見た目です。まず、扉絵の背景には安田講堂が大きく描かれています。東大の象徴の一つとしてメディアでよく登場する建物なので、見覚えがある方も多いことでしょう。

安田講堂と扉絵を比較している写真
正面から見た安田講堂と『妄想アカデミズム』第1話の扉絵*9 © 檜山ユキ/芳文社

東大の関係者でも、安田講堂に入る機会はあまり多くなく、卒業式などの式典やイベントの時に限られます。毎年5月に行われる五月祭は、オーケストラや合唱などのサークルが安田講堂内で演奏会を開催するので、誰でも気軽に立ち入れる数少ない機会です。

続いて、未春さんの妄想(単行本第1巻p. 14)の中に出てくる莉子さんとのランチの場面では、2人が池のほとりにあるベンチに座っています。おそらくこの池のモデルは、東京大学本郷キャンパスの中央付近に位置する「三四郎」でしょう。ベンチの形状、ベンチが東屋の中にある点、および2コマ目のクランク型の橋の形状が現地の様子と一致しています。

東屋の下にあるベンチと、作中のコマを比較した写真
三四郎池の南に位置する東屋とベンチ。後ろに石垣があり、作中と同じ後方からのアングルで撮るのは難しそう © 檜山ユキ/芳文社
池を渡れるクランク型の橋と、作中のコマを比較した写真
東屋の横にあるクランク型の橋 © 檜山ユキ/芳文社

三四郎池」というのは通称で、夏目漱石の小説『三四郎』の重要な場面でこの池が舞台となったことに由来します。池の正式な名称は「育徳園心字池」といい、江戸時代に本郷キャンパスの位置にあった加賀藩邸の庭園の一部でした*10本郷キャンパスの一部となった現在でも池の周辺は緑地として維持され、『三四郎』でも称賛されたとおり*11都会の喧騒から離れられる散策スポットになっています。

このように、『妄想アカデミズム』は、ここまで紹介したきらら作品の中でも特に密度高く東大の施設が描かれている作品です。作者の檜山ユキ先生は本作を描くにあたって本郷キャンパスで取材されたのでしょうか? 次回以降も東大の施設が登場するのかどうか楽しみです。ゲスト掲載とのことですので、皆さんぜひ応援しましょう。

(2023年10月追記:その後連載が続き、単行本第1巻が発売されました!)

試験問題編

東京大学の一般的なイメージとして、難易度の高い入学試験が挙げられると思います。本節では、東大の入学試験やそれに似たものが登場したきらら作品を挙げていきます。

紡ぐ乙女と大正の月(第2巻 p. 51)

『紡ぐ乙女と大正の月(つむつき)』は、大正時代にタイムスリップした女子高生の藤川紡さんが、周囲の女学生らとともに大正の生活をエンジョイする話です。第2巻に収録されている第16話「1921年9月1日」では、難しい問題を解くと痩せるのではという話の流れで、末延唯月さんが「とびきり難しい帝国大学の入試問題」をもらってきます。

帝国大学の入試問題が登場する漫画のコマ
作中に登場した「帝国大学の入試問題」*12 © ちうね/芳文社

この問題、よくみると「東京帝國大學醫學學科(東京帝国大学医学学科)大正十年」とあり、東大の前身である東京帝国大学の入試問題であることが分かります。大正10年は1921年なので、作中の時点で最新の過去問ということですね。

100年前の入試問題は著作権の保護期間が切れているので、国立国会図書館デジタルコレクションで全文を閲覧できます。そこで見てみると、実際に作中と同じ問題が大正10年の医学科の入試で出題されています*13。つむつきはリアル志向の作品なので、きちんと実際の入試問題を引用しているわけです*14

大正10年の東京帝国大学入試問題
大正10年の東京帝国大学医学科入試(著作権保護期間満了・国立国会図書館ウェブサイトから転載)

分量も多くないので、実際に解いてみます。まずは数学です。なお、問題文は旧字体で書かれていますが、面倒なので新字体で引用します。

(数學)1. aが実数なるときの1/(1+a)1-aとの大小を定めよ。

現代の高校数学でも出てきがちな大小判定の問題です。まずはこの2つをプロットしてざっくり大小を把握しましょう。なお、何度も式を入力したくないので以後1/(1+a)f(a)1-ah(a)と呼ぶことにします。

1/(1+a)と1-aを平面上にプロットしたグラフ
1/(1+a)と1-aのプロット

プロットを見ると、a = -1ではf(a)がゼロ除算となるので大小関係が定義できないことと、a = 0に両者の交点があることが分かります。a \lt -1ではf(a)が負かつh(a)が正になるのでf(a) \lt h(a)なのが明らかです。

残る-1  \lt a  \lt 0, 0  \lt aの範囲ではどうでしょうか? 見た目ではf(a)  \gt h(a)になりそうですが、念のため確かめておきましょう。f(a) - h(a)を計算してみると

f(a)-h(a)=\dfrac{a^2}{1+a}

です。a  \gt -1では分母は常に正、分子はa = 0のとき以外正なので、確かに-1  \lt a  \lt 0, 0  \lt af(a) - h(a) \gt 0だと分かりました。

答えは、a  \lt -1f(a)  \lt h(a)a = -1では大小関係が定義できない、-1  \lt a \lt 0, 0  \lt af(a)  \gt h(a)a = 0f(a) = h(a)となります。

(数學)2. 方程式y=x^nにて表はされたる曲線を書け、但nは正の整数なり。

nが正の整数というだけの制約では無限にプロットすることになって困りますが、とりあえずn = 1, 2, 3, 4についてPythonでプロットしました。令和の技術で大正の試験を殴るスタイル

与えられた式を平面上にプロットしたグラフ"
y=xnのプロット

これ以降も、nが偶数のときは0を挟んでどちらも正の方向に向かう曲線、nが奇数のときはxが負なら負の方向に、xが正なら正の方向に向かう曲線になります。

(動植物學)次の語に簡明なる生物学的解釈を附せよ。1. Mutation 2. Symbiosys 3. Mendelismus 4. Gastrula 5. Conjugation

科目は動植物学ではあるものの、英語の用語も把握していることが求められる問題です。各単語をググっていくと分かる通り、本問は遺伝学や生物の発生に関する単語が多めです。解答欄がどのくらいのサイズだったのか不明ですが、簡単に説明を書いておきます。

  • Mutation(突然変異):生物の遺伝子や染色体に変化が生じること
  • Symbiosys(共生):異なる生物種が相互に関係を持って生活すること。双方に利益がある相利共生、片方のみに利益がある片利共生がある
  • Mendelismus(メンデルの法則*15):遺伝学を基礎づけた法則で、個体の遺伝子の構成である遺伝子型と、形質として表れる表現型の関係を示す
  • Gastrula(原腸胚):動物の発生段階の一つで、原腸という消化管の元になる構造が形成される段階
  • Conjugation(接合):細菌などの生殖方法の一つで、細胞同士が接続して遺伝情報をやりとりし、新しい個体となる過程

(獨逸語)1. Wie aus Leblosem Leben entsteht, wie aus Lebendem Totes wird, ist auch ein Ratsel, das wohl niemals gelost werden wird; doch das geht nur die Wissenschaft an. Aber das andre, die Frage nach dem Sinn und Zweck unseres Daseins, geht jeden Menschen an, der uber sich und um sich blickt.

戦前の我が国の医学はドイツ医学を主流に取り入れていた、ということでドイツ語の出題です。特に指示がないですが和訳しろということでしょうか? 筆者はドイツ語の講義を選択しておらず全く分からないのでDeepL翻訳に頼ります。令和の技術で大正の試験を殴るスタイル

(DeepL翻訳の英訳)How life arises from lifelessness, how dead becomes from living, is also a riddle which will probably never be solved; but this concerns only science. But the other, the question about the meaning and purpose of our existence, concerns every human being who looks over himself and around himself.

(DeepL翻訳の和訳を少し修正)生命のないものからどのようにして生命が生まれるのか、生きているものがどのようにして死者となるのか、これもおそらく永遠に解けない謎だが、それらは科学にのみ関わることだ。しかし、もうひとつの、私たちの存在の意味と目的に関する問いは、自分自身とその周囲に目を向けるすべての人間に関係するものだ。

まちカドまぞく(まんがタイムきららキャラット 2022年5月号)

注意:本項は、まだ単行本になっていない連載の中身に関わるため、ネタバレとならないよう最大限ぼかして記載します。作中の表現や登場経緯については、雑誌や今後発売される単行本でご確認ください。また、少しでもネタバレになりそうな情報は見ないという方は「言及編」まで飛ばしてお読みください。

『まちカドまぞく』は、言わずと知れた大人気作品ですね。2022年春クールでは、TVアニメ2期が放送されました。

本作のメインとなるのはシャミ子さん・千代田桃さんが助け合いながら成長していく物語ですが、その背景には古代史・神話・伝承などに関わる意味深な描写が満載です。これは作者の伊藤いづも先生の膨大な知識に基づくもので、例えば事あるごとに古代メソポタミアが言及されたり、突然ヒエログリフヘブライ語ウクライナ語が書いてあったりと多種多様です。

web-mu.jp

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そんな『まちカドまぞく』の最近の連載回*16では、あるキャラクターがクイズを出してくるという展開がありました(最大限ぼかした表現)。前置きの文章に続いて「人類がエジプトで巨大文明を築いていく過程を600文字で概観せよ」というなかなか重そうな問題です。

こういった問題形式、実は東京大学の入試のうち「世界史」で伝統的に出題されてきた大論述という問題に似ています。筆者は理系で入試を受けたため問題を解いた経験はないものの、文科の受験生には重要かつ高難度の問題として恐れられているようです。大論述の特徴を列挙します。

  • ある地域や時代をテーマに、600字程度(約30字 × 20行)での論述を課す
  • 長めの問題文で、出題意図が説明される
  • 数個の指定語句が与えられ、文中で必ず一度以上使うように指示される

作中で出てきた問題の特徴と一致しているのが分かります。こうした形式の問題は東大以外ではあまり出ないようですので、大論述っぽい問題として描写されたと考えていいでしょう。なお、検索した限りでは作中の問題と文言が一致した過去問はない*17ため、オリジナル問題と考えられます。腕に覚えのある方は解答作成にチャレンジしてみては?

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言及編

東大の名前がセリフなどに出てきたきらら作品たちです。全てのきらら作品をチェックするのは不可能に近いため、取りこぼしがおそらくある点はご了承ください。

きらきら☆スタディー~絶対合格宣言~

『きらきら☆スタディー~絶対合格宣言~*18』は、受験勉強のための部活「絶対ごうかくラブ」の面々が勉強や青春を満喫する作品で、2016年から2018年にかけて全3巻が発売されています。作中冒頭で、主人公の美崎真零さんと間城満さんが目指す大学として「赤門大学」が登場します。第2話の偏差値表に「赤門大(文科1類)」、「赤門大(文科2類)」などと書いてあるので、東京大学と同様に教養学部前期課程のような制度が運用されているものと思われます。

本編は基本的に主人公たちの学校や自宅周辺で進むため、東京大学の施設が出てくることはありません。ただ、第2巻のあとがきに作者の華々つぼみ先生の東京訪問記があり、安田講堂や赤門など有名どころが登場していました。第3巻の最終話ではオープンキャンパスに行ったという会話がチラッとあり、そうした場面も見てみたかったなと感じます。

ぼっち・ざ・ろっく!(第2巻 p. 32)

『ぼっち・ざ・ろっく!』は、絵に描いたようなぼっちである後藤ひとりさんが、ロックバンドの一員として頑張っていく姿を描きます。2022年冬にTVアニメ化されました。

第2巻*19の第16話では、猛勉強して中間テストをクリアしたリョウ先輩が、意識高くなりすぎて「大受験するからバンド辞める」と言い出すシーンがありました。ご本人はその後何事もなかったかのようにバンドに参加しているので、ネタ発言だったようです。

がっこうぐらし!(アニメ第2話「おもいで」)

施設編でも出てきた『がっこうぐらし!』のTVアニメ*20第2話の終盤、肝試しを終えた学園生活部のシーンでも東大が言及されていました。丈槍由紀さんが、太郎丸との会話で「そうだ、太郎丸も一緒に卒業しなきゃ! えーっ? 東大目指す!?」と発言しています。『がっこうぐらし!』は原作とTVアニメで太郎丸の扱いがかなり異なるため、このセリフはアニメのみに存在します。

ドージンワーク(アニメ第11話「なじみ とんじゃう」)

ドージンワーク』のTVアニメ第11話にある即売会の場面で、主人公・長菜なじみさんの所へ書店委託の営業にきた星純一郎さんが「T大」を中退したとの会話がありました。

星純一郎「ちょっと前までは……T大生でした。」
長菜なじみ「えっ……。」
露理「頭良かったのね。」
星「ですが、自分の進むべき道はなじみさんの漫画を世に広めることだと思って、やめちゃいました! 」
露理「頭悪いのね。」
二道かねる「すごい行動力!」
星「いやあ、照れるなあ」
二道「でも、そんないい大学やめちゃって大丈夫なの?」

T大というイニシャルだけからは大学を特定できませんが、一般的にはいい大学だと思われていることを考慮して東京大学のことだと思っておきます。

おわりに

「東大が出てくるきらら作品ってどのくらいあるんだろう?」という雑談から本企画が始まりました。調べていくと、思ったより様々な登場の仕方をしていて、ボリュームのある記事になったのではないかと思います。

試験問題編や言及編でご紹介した作品では、難しい勉強をすることの象徴として東京大学の入試が出てくる場合が大半でした。高校を舞台とするきらら作品が多いため、勉強の話題になりがちであることもこの結果に寄与していそうです。

一方の施設編では、一見して東大と判別しにくい形で出てきたり、偶然風景の中にあったりとバリエーション豊かな登場の仕方が見られました。安田講堂や赤門といった超有名な東大のランドマークだけでなく、弥生門や工学部・東大病院など多彩な建物が描かれていましたね。本郷キャンパスの建物は重厚感のある特徴的な見た目のものが多く、風景の元ネタになりやすいのかもしれません。一方で、『ぎんしお少々』や『ステラのまほう(アニメ)』のように偶然背景に東大の建物があったケースもあり、地域の一部としての大学の側面も感じられました。

皆さまも、さまざまな「きららの中の〇〇」を探してみてはいかがでしょうか? 見慣れた作品にも新たな発見があるかもしれません。

*1:Quro・芳文社/星咲高校地学部.TVアニメ『恋する小惑星』(全12話).2020.

*2:東京帝国大学の内田祥三によって1920年代~1930年代に相次いで建てられた建物にみられるゴシック様式のこと

*3:ふぁぼん.東大生猪瀬舞概念.東京大学恋する小惑星同好会#FindOurStars.Vol.1,pp. 60-67.2021.

*4:Nitroplus海法紀光千葉サドルがっこうぐらし! ~おたより~.芳文社,2021.

*5:外来診療棟は1993年に竣工した新しい建物なので、内田祥三の作品ではないようです

*6:若鶏にこみ.ぎんしお少々 第1巻.芳文社,2021.

*7:くろば・U・芳文社ステラのまほう製作委員会.TVアニメ『ステラのまほう』(全12話).2016.

*8:『妄想アカデミズム』掲載号が発売されたのは筆者が本記事を書き上げてのんびりしていた7月初旬のことで、慌てて記事を追記しました。

*9:檜山ユキ.妄想アカデミズム 第1巻.芳文社,2023.

*10:東京大学 育徳園のあり方検討WG.育徳園の履歴とあり方(H28.3.18キャンパス計画室承認).2016. https://www.u-tokyo.ac.jp/content/400042002.pdf

*11:夏目漱石三四郎角川書店,1951.

*12:ちうね.紡ぐ乙女と大正の月 第2巻.芳文社,2021.

*13:北辰書院編輯部.帝國大學理學部工學部醫學部入學試驗問題集.北辰書院,1924. https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/937702

*14:この入試問題が収録された本、駒場キャンパス図書館の保存書庫に現物があるみたいです。駒場図書館に入れる方は請求してみましょう

*15:この単語だけ検索でドイツ語の本しか出てこなかったので、意味は推測です

*16:伊藤いづも.まちカドまぞく.まんがタイムきららキャラット,2022年5月号,芳文社,2022.

*17:エジプト絡みでは、2001年にエジプトの紀元前から現代までの歴史を一気に概観するという出題がありました

*18:華々つぼみ.きらきら☆スタディー~絶対合格宣言~ 第1巻~第3巻.芳文社,2016-2018.

*19:はまじあき.ぼっち・ざ・ろっく! 第2巻.芳文社,2020.

*20:Nitroplus海法紀光千葉サドル芳文社がっこうぐらし!製作委員会.TVアニメ『がっこうぐらし!』(全12話).2015.